速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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見積書をそのままAIに貼っていた、最初の1か月の話

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こんにちは。速水拓真です。


ここまで数回、リストの上にいる会社の読み方の話が続きました。今日は一度、その手前に戻ります。どの読み方も、機械を土台の上に置いて初めて回る話です。その土台を、私はAIを使い始めた最初の1か月で、一度崩しかけていました。


AIに仕事を任せ始めた最初の月、私は毎晩、その日のやり取りを機械に貼っていました。開いていたのは、個人のメールで登録した無料の画面です。見積書はファイルのまま添付する。顧客の名前も、先方の担当者の名前も、電話番号も、そのままの形で。翌朝フォローする文面を、その夜のうちに整えてもらう。便利でした。1週間で、夜の持ち帰り仕事が半分になりました。あの頃は、それだけがすべてに見えていました。


手元のほうが速い、は20年の癖だった


今から思えば、あの1か月は、AIの使い方以前に仕事の置き場所が崩れていました。理由は単純です。20年の間、仕事は手帳と頭の中にあったからです。名刺は手帳に挟む。見積書は引き出しに置く。顧客との約束は頭で覚える。個人の場所と仕事の場所が、最初から同じ場所でした。だから機械を使い始めても、貼る先は自然と、自分の画面になりました。


「手元のほうが速い」。これは、染みついて20年になる癖の言葉です。会社のどこか別の場所に置くには、そこへ届く経路を作らなければいけない。経路を作る40分がもったいなくて、毎晩の貼り付けだけを続けていた。この判断は、実は紙の時代からの繰り返しでもありました。引き出しの鍵は、ずっと自分しか持っていなかったのです。


「会社のメールで、登録してありますか」


転機は、管理部門の担当者に掛かったひとつの質問でした。社内でAI利用の申請を出すことになって、その機械は会社のメールで登録してありますか、と聞かれた。私は答えに詰めました。個人メールで始めていたからです。


その場では、近いうちに切り替えますと返したのですが、帰り道で引っかかったのは別のところでした。もし明日から自分が休んだら、この1か月ぶんの記録は、誰が開けるのか。整理してもらった文面も、貼った見積書の写しも、全部が自分の画面の中にある。個人の場所と仕事の場所が同じでよかったのは、自分が毎日そこにいたからでした。


あとから本にまとめるとき、こう書きました。営業の機械化で事故が起きるとき、原因のほとんどは道具の性能ではない。仕事の情報が、個人の持ち物のまま置かれていることだ、と。異動や退職のたびに、顧客の記録が一緒に消える。ログインの混線で、個人のアドレスから取引先にメールが飛ぶ。社内の申請が、登録メールひとつの指摘で1か月止まる。あとから取り返すのに3日かかる問題が、最初の40分で防げるのです。


引いたのは、3本の線


その週末に、40分かけて線を引き直しました。引いたのは3本です。


1本目は、アカウントです。仕事で使う登録を、会社のメール1本に寄せました。すでに個人のメールで始めていた画面は、履歴を移すより、必要な文面を打ち直して新しく登録するほうが早かった。1つ数分の世界で、昼休みに済みました。表示の名前は、半年後の自分が見てどちらの画面か分かる形にして、2段階の認証もかけました。


2本目は、境界線です。業務メモの2ページ目に、機械に入れてよいものといけないものの表を書きました。最初から完全なものは作れないので、入れてよい側3行、いけない側3行から始めます。顧客リストそのもの、見積の金額や条件の生の数字、社内の価格表。この3行は、条件を付けても入れないと決めました。逆に、業界の商習慣の一般の質問や、名前を隠したあとのやり取りの整理は、よい側です。運用の決まりは1行です。迷ったら、いけない側。見直しは月末に1回だけ。


3本目は、端末です。ブラウザの顔を2つ作って、仕事側を青、私用側を赤に分けました。15分の作業で、ログインの混線を心配する手間が毎日消えました。地味ですが、1日5分の確認が0になる計算です。


隠してから貼ると、文が初めて読めた


境界線を越えない範囲の仕事は、隠してから貼る形に変えました。社名を【A1】、金額を【金額】に置き換えてから、機械に渡す。最初のうちは面倒でした。毎晩の習慣に足した1手間が、自分なのに、面倒だと感じていたのです。


ただ、この面倒には思わぬ返りがありました。名前が消えた自分の案件の文は、初めて、他人の案件として読めたのです。【A1】の文からは、社名の大きさも、付き合いの長さも消えて、問題の構造だけが残る。20年の間、私は名前の入った文を名前込みの目で読んでいました。名前が付いているだけで、読む目が甘くなる。自分の顧客の案件を、構造として読めたのは、名前を外してからでした。整理を頼む前に、一度自分の目で通すようになったのは、この置き換えからです。


境界線は、忙しい週に緩む


境界線の運用で、いちばん大事な決まりをもう1つだけ。迷う行が出たら、すべていけない側に置くことです。そして、この判断を毎日続けないこと。「これくらい大丈夫」が出るのは、決まって忙しい週です。判断を毎日にばらすと、必ず手を抜く日が来る。だからルールは固定にして、見直しは月末の1回だけにする。続く仕組みは、緩まない仕組みでもありました。


月末の点検は3行です。個人メールの送信済みに、自社の名前を検索して0件か。機械の履歴に、実在の社名を1語入れて0件か。隠す語を更新した日付を、1行残したか。3行、5分で終わります。この3行が3か月分たまると、ちゃんと管理して使っていますを、口でなく記録で示せます。営業個人にとって、これは小さくない防御です。


文書が動くのは、記録が置いてあるから


以前、後輩が2日休むと分かった日に、引き継ぎを6行で済ませた話を書きました。あのとき書いたのは、文書をどんな形に束ねるかの話です。今日は、その前の話です。文書は、置いてある記録を束ねるだけでした。読める場所に記録がなければ、束ねるものがない。引き継ぎを軽くする仕事のほとんどは、道具の性能ではなく、情報の置き場所の問題なのです。


判断の基準は、今も1行です。明日から自分が休んでも、同僚が同じ場所にたどり着けるか。たどり着けない場所に、仕事の情報は置かない。20年の癖に逆らうのは、この1行を思い出すだけで済むようになりました。


任せる線


社名や番号を置き換えて隠すこと、履歴の検索、文面の整形は機械です。隠す語を決めること、迷う行をいけない側に置くこと、月末に検索を回すこと、線を引き直す判断は人間です。最初の1か月の私は、機械に任せた仕事の量しか数えていませんでした。任せた仕事が、どこに置かれるのか。線を引いて初めて、任せたぶんだけ休める仕組みになりました。


今週、ひとつだけ試すなら


まず、使っているAIの登録メールを1回開いて、確かめてください。会社のメールかどうか。そこが分かれば、今日の話の半分は済んでいます。線を引く40分は、まだ先で構いません。手元のほうが速いは、当分そのままでよいのです。ただ、仕事の情報が自分しか開けない場所に置いてある間は、任せた仕事が膨らむだけで、自分は休めなくなります。20年目の私が崩しかけた土台は、40分で引き直せました。1か月ぶんの夜の便利さより、1年後に休める日数のほうが、ずっと大きいのです。


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