会社の困り事を、求人票が先に告白していた話
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こんにちは。速水拓真です。
前回は、点数の内訳を聞き返して、基準の一行を直したら全部が直る話を書きました。入れ替わりの済んだ新しい表は、昨日の朝のうちに手元へ落ち着いて、行は自分の順路に並べ替えられています。表が静かになると、次に来るのは、リストの上にいる会社に寄る支度の話です。昨日の夜、本リストの上位5社の名前を並べた紙に、検索の窓に打つ一行を足しました。「会社名 求人」の一行です。20年、営業の道具として使ってきた検索の窓の中で、この打ち方が仕事の欄に置かれたのは、昨日が初めてでした。
求人票は、人を探す紙だと思っていた
20年前の私が、新規で寄る候補を調べるときに読む紙は決まっていました。業界の新聞、あいさつの手紙、人づての話。求人票は読む紙に入っていません。人を探す紙は人事の領域で、営業が覗く場所ではない。読み飛ばす理由を、当時の中では立派に組み立てていました。調べる順路の地図に書いていなかった道を、20年近く通らずに過ごしてきたことになります。
昨夜、上位5社ぶんの求人票を開けたのは、通らなかった道を一度歩いてみる実験でした。5社ぶんの求人票を丸ごとAIに渡して、各社が抱えていそうな課題を並べた表を出してもらう。表が返ってくるまでの間、「なぜ会社は人を探すのか」の一行を自分で書いていたとき、向きが変わりました。会社は、余裕があるから人を探すのではなく、今のままだと回らないと宣言してから人を探しています。人を雇う理由は、仕事が個人の手の中に滞って、ギリギリの速度で回っているからです。求人票は、会社の困り事を、会社自身が先に書いた告白文でした。
職種名を、そのまま読んでいた
返ってきた表で最初に直ったのは、職種名の読み方です。私は職種名を読むと、その名に合わせた用意の話を進めて、読み打ち止めにしていました。AIが返した表は、職種名の裏にある課題の言葉まで直して並べたものです。DX推進の担当と書かれた募集は、これから新しい仕組みを入れる会社の宣言ではなく、手元の仕事の記録がまだ表の形になっていない、と書いた行に直りました。問い合わせの対応の担当と書かれた募集は、問い合わせの数が人と仕組みの受け皿を追い越した、という行に直りました。職種名は、会社が抱えている課題の入り口の名前だったのです。
端の一行が、いちばん正直だった
読む場所は、職種名だけでは足りません。昨夜の読み返しの中で、自分の目でも読めるようになったのは、3つの端です。まず件数。同じ職種の募集が、同時に何件置かれているか。一つの拠点ぶんなら補充ですが、別々の場所で同時に置かれているなら、そこには慢性的な穴があると読めます。次は期間。急募の文字が60日経っても消えずに載り続けている求人は、示した条件と現場の実態が合わずに長引いている形です。最後は応募資格の欄の端。手作業の腕を見る文言が、歓迎条件として一行書かれているとき、今の手作業は限界まで回っている、と読めます。この欄の一行は、面接の用意のために人事が現場から聞き取った生の声の写しです。告白文の中でも、いちばん端に、いちばん正直な一行が置かれています。
決算の資料は、「やると言ったこと」のカタログ
求人票の隣にもう一つ、通らなかった道があります。決算の資料です。株主に向けて出す紙なので、これからやると言ったことは数字つきで書かれています。嘘を書けない紙の上に、会社のこれからの用意が置いてある。リストの上位の会社のうち、決算の資料が公開されている2社の資料を開けて、見た数字は3つだけです。売り上げの伸び。利益の残り方。従業員の数。3つを、前の年に並べて読みます。2社のうちの1社は、従業員の数だけが増えて、売り上げと利益は足踏みでした。従業員一人の生産性が下がっていると、数字の側から告白が読める形です。もう1社は、利益率を引き上げると中期の計画で宣言した文言がそのまま残っていたので、宣言の一文が、寄る理由の叩き台としてそのまま使えました。会社自身が数字つきで書いた約束の文は、借りることのできる本人の言葉です。
一方で、文字を選べない仕様の書類もありました。手元に届いた形のままAIの画面に添付して、同じ形式の表を出してと続けたら、数字の並びの部分だけを拾って表にしてくれました。読み取る側の力が増えたぶん、紙の形の抵抗のせいで断念していた読み方の場所が減っています。
決めつけの文は、引用の一文で問いになる
ここまで読み返して、20年前の失敗談を一つ思い出しました。ある工場に寄ったとき、開け口の一文で、最近何か動きがありそうですね、と聞きました。返事はとくに動きはありません、で、その後の空気は湿ったまま終わりました。あとから別の縁で分かったのは、その会社が当時まさに、問い合わせの対応の担当を急募していたことです。答えは、私が読み飛ばしていた求人票の一行に書いてありました。何も読まずに聞いた問いは、聞いた本人が下調べをしていないことを、そのまま相手に届けてしまいます。
いまの形は、告白文の文言を引用符で囲んで問いに直すことです。問い合わせの件数の一行を引用して、現在はどのように回していますか、の形で聞く。引用の一行が付くだけで、決めつけの文は、調べた人の問いに変わります。AIに頼むときの設計にも同じ約束を入れています。表の各行には、根拠になった文言を一行付けて出してもらう。根拠を書けない行は出さない。読み出した課題は、告白文の写しと根拠の引用つきで持っていく仮説であって、確定の話ではありません。
聞く前に組み立てられるのは8割
20年立っていた常識に、課題は顧客の口から聞くもの、というのがあります。この常識は半分だけ正しいです。口から聞けるのは残りの部分で、多くの部分は聞く前に並べられます。並べる場所は、会社自身が書いた告白文と、嘘を書けない紙の上の数字です。ただし、並べた8割が決めつけのまま寄ると、20年前と同じ湿った空気に戻るだけです。根拠の引用を1行付けて、問いの形に直してから持っていく。この一手を足すと、聞く時間の中身が変わります。調べた範囲の確認に時間を使わずに、機械が並べられない残りの部分を聞きに行ける。告白文が読める営業は、聞く問いの数が少なくて済む営業です。
読み切れない行は、捨てずに1行残す
職種名から読める行は、強く読めます。応募資格の端から読める行は、弱い仮説です。あやふやな行を捨てないのは、告白文の読み方の半分がそこにあります。会社名と2語を、前から回している見張りの登録の末尾に一行足すだけ。報道が裏を取るまで置いておきます。告白文が嘘とは言っていません。言い切れるまで置いておくのが、仮説の置かれるべき場所です。捨てた行は、見つけたこと自体が無くなります。弱い仮説として置いた行は、裏が取れたとき、初めて強い行に変わります。
任せる線
求人票の本文の通し読み、職種名を課題の言葉に直す表、根拠の文言の抜き出し、3つの数字の前の年に並べ直すこと、紙の形のままの添付の読み取りは機械です。検索の窓に打つ2語、読む紙の順路の決め直し、弱い仮説の残し方、引用で問いに直す判断、寄る理由を一文に縮める作業は人間です。20年前の私の順路の地図には、この道が最初から書いてありませんでした。今の順路は、告白文を先に読んで、残りの部分だけを聞きに行く形です。
今週、ひとつだけ試すなら
リストの上にいる会社のうち5社だけ、検索の窓に「会社名 求人」と打って、職種名の一行だけ読み返してみてください。なぜこの職種が今足りないのか、の一行に読み直すだけです。20年前の私には、告白文として読む目がなくて、人事の紙だと思い続けて読み飛ばしていました。会社は今のままだと回らないから人を雇っています。困り事は、会社自身が先に書いて公開しています。聞く前の8割が読める場所は、今は誰の目にも開いています。
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