速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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AIに書かせた提案書に、間違った数字があった話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


AIに仕事を任せたなかで、いちばん肝が冷えたのは、提案書の数字でした。


提案書の初稿をAIに書かせ始めて、数週間たったある日のことです。出てきた6枚のうちの5枚目、料金と効果のページに、こう書いてありました。導入後の効果は、月14万円。初年度の契約総額は240万円。回収期間は、約1年半。


どれもそれっぽく見えました。文章は整っているし、式まで本文に残してある。私はその提案書を、ほとんど読み直さずに商談に持ち込もうとしていました。ふと手元の電卓で打ち直したのが、運の尽きでした。月額の計算が合わない。よく見ると、「月14万円 × 12」のはずの年間効果が、「×120」で計算されていた。桁が1つ、大きい方へ滑っていたのです。


年間効果は168万円のはずが、1,680万円になっていた。商談で読み上げていたら、その場で信用が終わっていた数字です。


AIの間違いは、文章が上手いぶんだけ質が悪い


その日から、AIの数字の出力を眺める時間を作りました。眺めて分かったのは、間違い方に癖がある、ということです。


AIは文章が上手くて、計算が下手です。しかも間違い方が質が悪い。桁を1つ落とす。×12が×120になる。それでいて、その行を含む文章は滑らかなのです。滑らかな文章に乗った間違った数字ほど、読み手の信用を落とすものはありません。数字だけが間違っていて、周りの文章が正しけ、たいていの読み手は気づかない。読まれるたびに、間違った数字のまま信じられていくのです。


さらに困ったのは、間違い探しの時間でした。式を残すように指示していない頃の提案書は、結果の「240万円」だけが書いてある。どこで、何を、どう間違えたのかは、文章を読み直しても分かりません。間違い探しが何十分もかかる。AIは速いのに、検算で遅くなる。任せた意味が、そこで消えていました。


直したのは、指示の1行でした


直し方は、小さな1行でした。提案書を書かせるときの指示に、「金額は、すべて式を本文に残す」と加えたのです。


月額は単価×ID数。初年度総額は初期費用+月額×12。回収期間は総額÷月次効果。こうした形で、計算の過程をそのまま本文に残させる。それだけの変更でした。


すると、世界が変わりました。出てきた数字が合っているかどうかは、読み直しでは分からなくても、電卓で打ち直せば1分で分かる。そしてズレたとき、どの式のどこが滑ったかが一目で分かる。「月14万円(年168万円)」と月次と年次を並べて書いておけば、桁の取り違えそのものが起きにくくなる。検算が10分で終わるようになったのは、読み方を変えたからではなく、式を残させたからでした。


やり直しは1回と決めています。直してもまだ合わない行は、AIの数字を消して、自分の電卓の数字に置き換える。AIは責任を取りません。数字の責任は、提出した営業本人に帰属する。だから検算は、署名の前の最後の工程なのです。


商談の前夜に、電卓を4回打つだけ


今は、こうしています。商談の前夜、提案書を開いて、電卓を4回だけ打つ。月額。初年度総額。月次効果。回収期間。4点です。1分で終わります。


それ以外は読み直しません。文章はAIが上手くやってくれる。私は数字の4点だけを見る。


昔の同僚に、この話をしたことがあります。彼は半分笑いながら、こう言いました。「お前、AIに任せておいて、電卓は自分で打つのか」と。そのとおりです。電卓を打つ1分は、20年分の商談で身についた、いちばん安い保険でした。AIに任せて浮いた時間のなかで、最初の1分は、必ずここに使うと決めているのです。


20年前、提案書を1本書くのに半日かけて、しかも計算を間違えていた頃と比べると、隔世です。当時は計算を自分でする代わりに、式を残す発想すらありませんでした。半日かけて、間違い探しもしていたのです。


任せる線


まとめます。文章はAI、計算は電卓、責任は自分。数字を口にするのは人間で、その数字を検算する道具も人間の手元にある。


AIが悪いのではありません。任せたままで、検算を戻さなかった私が悪かった。任せるとは、任せた後の責任まで手放すことではないのです。


今週、ひとつだけ試すなら


AIに書かせた文書で、数字が入っているものが1つあるなら、電卓を4回だけ打ってください。見積書、提案書、報告書、何でも構いません。


合っていれば、それで終わりです。その1分で、あなたの名前で出す数字に根拠が付いたことになります。


間違っていれば、直す場所は指示のほうです。計算の過程を本文に残させる1行を足して、もう1回だけ書かせてください。それでも合わない行は、自分の電卓の数字に置き換える。検算は、署名の前に置く工程です。


書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 20年目の営業が本気でAIを使い倒した記録』(速水拓真)では、提案書をAIに書かせるときの3層の渡し方と、出てきた6枚を検算する4点、間違えたときに直す3か所までを、貼って動く形でまとめています。


それでは、また。


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