速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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良い感じで終わった商談が、いちばん消える話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


20年間、私は商談を失うのは商談室の中だと思っていました。準備が足りなかった。提案の筋が悪かった。競合に負けた。すべて、あの部屋の中の出来事でした。


ところが、AIに記録を任せ始めて、案件を遡れるようになると、見え方が変わりました。消えた案件を並べ替えてみると、商談室の中で失っていたものは思ったより少ない。いちばん多かったのは、うまくいった商談でした。2時間話して、笑顔で別れて、そのあと音沙汰なし。商談を失う場所は、商談室の中ではなく、商談室を出てからの数日だったのです。


良い商談ほど、終わり方が雑になる


昨年のある商談の話をします。


2時間の商談でした。先方の課題がこちらの提案と噛み合って、途中からは価格の話をしてもいい空気になった。担当者さんも笑顔で、「前向きに検討します」という言葉をいただいて、商談は終わりました。帰りの電車では、久しぶりにいい商談ができたと思っていました。


2週間、先方からは何も届きませんでした。


こちらから進捗を尋ねるメールを2通送りました。返事はありませんでした。3週間目に「一度、状況を伺ってもよろしいですか」と電話をしました。出ませんでした。あの「前向き」は、どこへ行ってしまったのか。半年後に先方の別の担当者とすれ違う機会があり、初めて分かりました。その案件は、商談の翌週に、社内の別の優先事項の後ろに並ばされていたのです。


ここで気づいたことがあります。緊張する商談は、準備するものです。事前の調査を厚くして、想定質問を並べて、入り口の一文まで書いて臨む。ところが、うまくいっている商談は、安心して会議室を出てしまう。悪い商談は終わり方まで考えられているのに、良い商談は「良い空気」に任せて終わるのです。


でも、空気は商談室の外に持ち出せません。相手の記憶も、持ち出せません。商談室の外に持ち出せるのは、その場で言葉として交わされたものだけです。私はあの商談で、最後の3分間に何も交わしていませんでした。


「検討します」には、3つの型がある


では、あの「前向きに検討します」は、なんだったのか。


断りの文面を分類する仕事をAIに任せて、何十件も失注の記録を眺めているうちに、検討にも型があることが分かってきました。3つです。


1つ目は、本当に検討する検討です。予算の期日や、決裁のタイミングが決まっていて、動く日が先方の中で予定されているもの。


2つ目は、断るのが面倒な検討です。その場の空気を壊さないための、丁寧な形をした「いいえ」。


3つ目は、社内に通す検討です。担当者さん本人は前向きでも、その先にいる別の誰かが決める案件。この型は、検討の仕事が商談室の外の、私の見えない場所に移るだけです。


この3つは、言葉の上ではすべて「前向きに検討します」です。分けられるのは1つだけ、日付です。動く日が決まっている1つ目だけが、日付を言えます。2つ目と3つ目は、日付を言えない。


つまり、日付のない検討は、3つの型の区別ができないまま、手元に残るのです。私はあの2時間の商談のあと、型の分からない「前向き」を1つ抱えて帰って、それを「良い商談の成果」として勘定していたことになります。


終わりの3分を、台本にした


それ以来、商談の終わり方を台本にしました。


やることは、商談の最後の3分で、こちらから日付を1つ口にすることです。「それでは、進捋は◯月の第2週に、改めてこちらからご連絡します」。日付は、頼みません。こちらから宣言します。「ご都合のよいときに」は検討の2つ目の型にしかなりません。連絡するのは、いつもこちらです。


もう1つは、会議室を出てからの3分です。


商談が終わって、次の移動までの間に、商談メモをAIに渡して、書き出させるのは1行です。「この商談で交わした次の約束は何か」。返ってきた1行を、私は確かめる。その約束を、本当に私が口にしたかどうか。生成された文面が整っているかどうかは、見ません。約束は文面の美しさではなく、言ったか言わないかで決まるからです。


ここまでは私が自分でやっていた作業でした。何年も前から、商談のあとは「次のアクション」を手帳に書く、とは言われてきました。実際に書いていた。でも続かなかった。商談のあとの時間は、次の移動と報告に吸われて、手帳を開く数分はいつも後回しになる。書けた日は頑張った日で、書けない日の方が多かった。


AIに書き出させてから、この作業が続くようになりました。続いた理由は、書く量が減ったことでした。手帳に書いていたのは、商談の感想ごとでした。良い商談の感想は嬉しいので、つい書く。ところが感想は、書いた分だけ次の商談の準備に使われない。いま書き出すのは約束の1行だけ。感想は書かせない。書く量が1行になると、3分で終わる。3分で終わる作業は、翌日以降に流れないのです。


約束は、書類箱に沈まない仕組みになる


この1行が、いちばん効くのは、次の商談の準備です。


商談の前日に、AIが商談前メモを整えてくるとき、前回の約束が自動的に1行目に載ります。「前回、◯月◯日に、◯月の第2週に連絡すると約束しました」。私はその1行を見て、宣言した連絡の日を過ぎていないかを確かめるだけになる。約束は、私の記憶と手帳が担っていた時代には、書類箱の底に沈むのが当たり前のものでした。記録に渡すと、沈まなくなりました。


任せる線をまとめます。


約束を書き出すのはAIです。商談メモから約束の行を拾って、次回の商談前メモの1行目に載せるのもAIです。私は商談のあとに感想を書く役を外され、確認する役にだけ残りました。口にしたかどうか。日付が守れる日かどうか。その2つだけです。


そして、約束そのものを交わすかどうかは、渡していません。日付を口にするのは、商談室の中の、私の仕事です。AIは商談室に入れません。最後の3分で先方の顔を見て、言うか言わないかを決めるのは、結局、人間です。ここを外に出すと、約束は文面になって、先方の記憶に残らなくなります。


今週、ひとつだけ試すなら


次の商談の、最後の3分で構いません。進捗を報告する日付を、こちらから1つ口にしてください。相手の都合は聞かなくていい。連絡するのはこちらなのだから、日付はこちらの都合で決めていいのです。


商談が終わったら、メモをそのままAIに渡して、こう送ってください。「このメモから、次の約束を1行だけ書き出して」。返ってきた1行を、言ったかどうかだけ確かめる。


これを3件続けると分かることがあります。日付を口にした商談と、口にしなかった商談の、そのあとの消え方の差です。私はこの差を20年、自分の腕のせいにしてきました。腕ではなく、最後の3分でした。


書籍『商談をAIに鍛えさせろ — 20年目の営業が本気でAIを使い倒した記録』(速水拓真)では、商談の終わり方の台本から、約束を記録につなぐ運用まで、商談を商談の外で守る作り方を、貼って動く形でまとめています。


それでは、また。


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