速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
note

AIに任せる線は、一度引いたら終わりだと思っていた

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


2年前に自分の営業へAIを入れたとき、最初に決めたのは「何を任せるか」ではありませんでした。「何を任せないか」でした。道具が増えれば仕事は速くなる、くらいに思っていたのに、実際に最初に必要になったのは、任せる範囲の線を引く作業でした。


その線を、私は当時いちばん間違った基準で引いていました。今日はその話です。


最初に引いた線は、能力で引いていた


最初の1ヶ月、私は「AIができるかどうか」で線を引いていました。文章を書けるか。表を作れるか。計算が合うか。できる仕事は任せて、できない仕事は自分でやる。そういう分け方です。


この引き方でいちばん速く進んだのが、企業調査でした。それまで1社30分かけていた下調べが、調査カードを渡すと3分で形になる。担当者に会う前に、事業の柱、直近の動き、こちらが持っている接点が1枚に並びます。これは本当に楽でした。


問題は、その3分で出てきた材料を、私が理解していなかったことです。ある商談で、「この数字は、どこから出てきたんでしたっけ」と聞かれました。私は調査カードを見ながら答えましたが、答えの半分は、その場で初めて読んだ内容でした。


相手はそれ以上追いませんでした。追われなかったことが、いちばん効きました。私は自分の理解より速く話していたのです。


線を決めていたのは、能力ではなかった


その日から、線の引き方を変えました。基準は「AIができるか」ではなく、「私の名前で説明できるか」です。


調査そのものは今もAIに任せています。任せ方を変えました。出てきた材料のうち、商談で口にする可能性がある数字は、前日に3つだけ選んで、出典まで自分で確認する。残りは当日の手元資料として置いておくだけにする。同じ調査でも、任せた結果を私が引き受けられる範囲に切り直したわけです。


任せる線というのは、能力の線ではなく、責任の線です。顧客の前でも、社内でも、最後に「私が言いました」と引き受けるのは私です。引き受けられないものは、任せたことになりません。任せたつもりで、ただ置き去りにしているだけです。


渡したあと、線は動く


もうひとつ、最初に誤解していたことがあります。線は一度引いたら固定だと思っていました。


提案書は、いちばん分かりやすい例です。3層プロンプトを渡すと、初稿が40分ほどで6枚出てきます。最初の2週間、私はそれを全部読み直して、平均10箇所直していました。誤字ではなく、私の言い方に直す箇所です。


3ヶ月後、直す場所は2箇所になっていました。AIが賢くなったからではありません。私のほうが、直す場所を先に決めるようになったからです。この案件で言いたいことは何か、最初に渡す材料に何を入れて何を入れないか。渡す前に決めることが増えて、出てきたものに手を入れる場所が減りました。


任せる線は、能力が上がると動くのではありません。渡す側の準備が変わると動きます。だから線は、引いた日から動き続けるものだと思っておいたほうがいい。私の場合は、それを忘れて、一度引いた線を半年ほど放置して、渡し方のほうが古くなっていました。


逆に、戻した仕事もある


渡す仕事が増える一方で、戻した仕事もあります。失注した案件の振り返りです。


事実の整理は、今もAIに任せています。いつ、誰が、何を言ったか。議事録とメールから時系列を並べる作業は、疲れていても正確で、私より速い。


ただし「なぜ負けたか」の一行は、自分で書くように戻しました。理由は単純で、敗因の材料の多くは、議事録に残っていないからです。相手が少し黙ったこと。こちらが金額を出したときの、室内の空気。上長に相談せずに持ち帰ったこと。そういうものを持っているのは私だけです。AIに書かせた敗因は、もっともらしい一般論になります。一般論は、次の商談を変えません。


戻した合図は、はっきりしていました。そのレポートの結論を、自分の名前で説明できなくなったときです。渡したあとに説明責任を負えないと気づいたら、その仕事は戻す。私はこの一点だけで、戻すかどうかを決めています。


線の見直しは、四半期に30分でいい


線を毎日考えていたら、仕事になりません。だから見直しの時期を決めてあります。四半期に1回、30分です。


やることは3つです。まず、いまAIに渡している仕事を紙に書き出す。次に、各行の横に「これを、私の名前で説明できるか」を丸かバツで付ける。最後に、バツが付いた行だけ、戻すか、条件を足して渡し直すかを決める。


紙に書くのが大事でした。頭の中では、渡している仕事は3つか4つくらいの感覚です。実際に書き出すと、12行くらいあります。そのうち2行にバツが付く。これが四半期ごとに1回あるので、年4回、線を引き直している計算になります。


条件を足して残す、という選択も増えました。調査を丸ごと戻すのではなく、口にする数字だけ自分で確認する。提案書を戻すのではなく、最初に渡す材料を自分で選ぶ。戻すか任せるかの二択にすると、線が荒くなります。


任せる線を引くのは、手放すためではない


ここまで話して、ようやく分かったことがあります。任せる線を引く目的は、仕事を減らすことではありません。決めることに時間を取り戻すことです。


20年やってきて、営業の成果は作業量では決まらないと分かりました。同じ30分でも、資料を整える30分と、この案件をどう持っていくかを決める30分では、翌月の数字が変わります。AIに渡すのは、前の30分です。渡した分だけ、後の30分が増えます。


だから、線を引く作業はいちばん面倒で、いちばん後回しにされます。それでも、これをやらないと、渡した仕事が責任の外に溜まっていく。溜まった分は、いつか商談の場で、私の口から出てきます。


今週、ひとつだけ試すなら


今月AIに渡した仕事を、AI自身に思い出させてください。「今月、私があなたに任せた作業を一覧にしてください」と聞けば、だいたい出てきます。


その一覧の各行に、「これは私が自分の名前で説明できるか」を丸かバツで付けてみてください。バツが1つでもあれば、そこが次の四半期に線を引き直す場所です。


バツが付いた仕事を、すぐ戻す必要はありません。説明できるように条件を足す、という直し方のほうが、たいていの場合うまくいきます。線は、引く日よりも、引き直す日のほうが大事です。20年目にして、ようやくその順番が分かりました。


書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(速水拓真)では、調査カードの作り方から提案書3層プロンプト、そしてこの「任せる線」の引き方と見直し方まで、営業の準備を1人で回す工程を通しで解説しています。


それでは、また。


🎁 読者特典3点セット(無料)


  • ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版

  • ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)

  • ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)


メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。


→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)


> 📗 営業の仕事をAIに任せろ(Amazon・読み放題対象)


>


> 📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ


>


> 📚 この連載の他の媒体: Zenn(技術編) ・ はてな(実践編)

営業×AI実践シリーズ 全3作

Kindle Unlimited 読み放題対象 — 追加料金なしで読めます

← 記事一覧へ

← 経営層が動くのは3つの数字だけ — 「工数が減っ…失注理由は「価格」ではなかった — 20件のログ… →