失注理由は「価格」ではなかった — 20件のログを3つの型に分けたら、次の一手が見えた
「価格で負けました」。営業をしていれば、この一言を何度も聞きます。
私が以前、失注した案件の記録を20件ぶん並べて読んだことがあります。すると、表向き「価格」と書かれた案件の多くに、後から別の事情が見えてきました。値引きで勝てる案件は、そもそも最初から値引きでは取れていないのです。
この記事では、失注ログをAIで整理する手順を扱います。特別なツールは要りません。表計算ソフトと、AIチャットだけで回せます。
なぜ失注理由をそのまま信じてはいけないのか
先方から返ってくる失注理由は、たいてい短い言葉です。「価格」「今回は見送り」「上司が難色」。この言葉をそのまま集計すると、営業の改善につながりません。
理由は3つあります。
- 失注理由は角が立たない言葉に置き換わる。 本当の理由が「担当者の社内調整が足りなかった」でも、伝える側は「価格」と言います
- 1件ごとに言葉が違う。 「価格」「コスト」「予算感」は同じ意味でも、文字列としては別物です
- 記録する側も疲れている。 失注の連絡を受けた日は、たいてい次の案件で埋まっています
この3つを人力で潰そうとすると、記録の粒度が人によってバラつきます。私はここでAIを使いました。
AIに渡す前に、項目を固定する
AIに失注理由を整理させるとき、いきなり「傾向を分析して」と頼むとうまくいきません。出力が毎回変わって、前月との比較ができなくなるからです。
先に列の定義を決めます。私が使っているのは9列です。
日付 / 顧客名 / 規模 / 失注理由(先方の言葉そのまま) /
初回接触からの日数 / 提案金額 / 競合の有無 / 本音の推測 / 次の一手
大事なのは、「失注理由」と「本音の推測」を別の列にすることです。1つの列に混ぜると、先方が言った言葉と自分の推測が区別できなくなります。
もう1つ、「初回接触からの日数」を必ず入れてください。これは後で効きます。
プロンプトは「3つの型に分類しろ」と指示する
列が埋まったら、AIに投げるプロンプトです。実際に使っているものを載せます。
以下は、私が記録した失注案件のログ20件です。
各案件を次の3つの型のいずれかに分類してください。
型A: タイミング型(予算時期・社内の優先順位・担当者の異動など、時期の問題)
型B: 関係構築型(決裁者に会えていない・社内の合意が取れていない)
型C: 提案内容型(課題の捉え方がずれた・機能が合わない・価格以外の条件)
分類のルール:
- 「価格」と書かれていても、他会社の見積もりが同時に動いていれば型A
- 「価格」と書かれていて、決裁者に会えていないなら型B
- 分類の根拠は「本音の推測」列を必ず引用すること
- 判断できない案件は「保留」として理由を1行で書く
出力は、型ごとに件数と代表例3件を示す表にしてください。
このプロンプトの要点は3つです。
- 型を先に定義する。 AIに自由に分類させると、毎回違う分類軸が生まれます
- 「価格」の扱いを明示する。 ここが一番ぶれます。同じ「価格」でも、競合の動きなら型A、決裁者不在なら型Bです
- 根拠を引用させる。 引用があると、分類が合っているかを人間が確認できます
20件を分類した結果
私の手元の20件では、型Aが12件、型Bが6件、型Cが2件でした。表向き「価格」と書かれていた案件の多くが、型Aと型Bに分かれました。
ここから読み取れることがあります。
型A(タイミング)が多いなら、変えるのは「営業の動き方」ではなく「接触する時期」です。 予算時期を先に確認する質問を、初回商談の必須項目に足します。私の場合は「この検討は、いつの予算に乗る想定ですか」の1問を加えました。
型B(関係構築)が多いなら、変えるのは「提案書の1枚目」です。 決裁者に会えていないのが原因なら、提案書を磨いても効きません。初回商談で決裁者までの道筋を確認する運用に変えます。
型C(提案内容)が多いなら、ようやく提案書の中身を直します。 3つの型のうち、提案書を書き直すべきなのはこれだけです。
この順番が大事です。分類せずに「失注が多いから提案書を磨こう」と動くと、型Aと型Bの案件には何の効果も出ません。
集計結果を「1か所だけ」変える
分類が終わったら、次の四半期で変えるのは1か所だけにしてください。
3か所同時に変えると、何が効いたのか分からなくなります。私の運用では、型の件数が最も多いものに対応する1か所だけを変えます。
例えば型Aが最多なら、変えるのはこれだけです。
初回商談の質問リストに1行追加:
「この検討は、いつの予算に乗る想定ですか」
これだけです。1行の質問を足して、3か月後にまた同じ分類を回して、件数の変化を見ます。
AIに任せていい範囲と、任せてはいけない範囲
最後に、この手順で線を引いている場所を書きます。
AIに任せる範囲:
- 失注理由の文字列を、定義済みの3つの型に振り分ける
- 似た表現(「価格」「コスト」「予算感」)の名寄せ
- 型ごとの件数集計と代表例の抽出
人間がやる範囲:
- 「本音の推測」を書くこと。先方の表情、社内の空気、会話の間——ここは記録する本人しか書けません
- 型の定義そのものを決めること。自社の商売によって正しい型は変わります
- どの1か所を変えるかを決めること
この分担にしておくと、AIは分類の労力だけを引き受けて、判断は人間の手元に残ります。失注理由の分類は、判断の材料を整える作業であって、判断そのものではありません。
まとめ
- 先方から来る「価格」という失注理由は、そのまま集計してはいけない
- 記録は9列。「失注理由」と「本音の推測」を別の列にするのが要点
- AIには3つの型(タイミング/関係構築/提案内容)への分類を指示し、根拠を引用させる
- 分類の結果、変えるのは1か所だけ。3か所同時に変えると効果が測れない
- AIに任せるのは分類と集計。「本音の推測」と「型の定義」は人間の仕事
失注は、営業が手にする中でいちばん質の高いデータです。実験が終わっているのに、結果を記録せずに捨てている——もったいない話です。
この連載の続きは、はてなブログでも毎日書いています。
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