速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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自分の仕事を知らないまま、AIに渡していた話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


AIに何かを任せるとき、私がいちばん長いあいだ思い込んでいたことがあります。「自分の仕事は、自分がいちばんよく知っている」という前提です。20年も営業をやっていれば、自分の仕事の中身ぐらい分かっている。だからAIに渡すときも、渡すものを選ぶだけで、選ぶ前の確認なんて要らないはずだった。


ところが、最初にAIへ渡そうとした週、私は自分の仕事の中身を、知らないままでした。任せるかどうかを悩むより前に、「そもそも手元に、渡せる形の仕事があるのか」を確かめたことが、一度もなかったのです。


「営業」という名前の、分からない箱


あの週、私はAIに渡す仕事を選ぼうとして、メモを開きました。書こうとしたのは「AIに任せる仕事」の一覧です。ところが、書き出したのは「リスト作り」「調査」「提案書」「フォロー」という4つの単語だけ。それぞれに何時間かかっているのか、1週間のどの時間帯にやっているのか、思い出そうとしても、はっきり出てこなかった。


思うままに書いた最初の1行は、「9時から12時、営業活動」。これで終わりでした。半日を1つの箱に押し込んだまま、私はその中身を20年間、開けていなかったのです。


同僚に「AIに何を任せるんだ」と聞かれて、私は「営業の、事務の部分」と答えました。同僚は「その事務って、何時から何時までの何だ」と聞き返してきた。答えられませんでした。20年目の営業が、自分の仕事の説明ができない。いま思えば、この瞬間に、この話の種がありました。


渡すか渡さないかを悩む前に、渡すものの中身を見ていなかった。AIに任せる話は、判断の話だと思っていました。でも判断は、材料が揃って初めてできる話でした。私は箱の中身を見ないまま、箱ごと渡すかどうかだけを悩んでいたのです。


3日間、30分だけ箱を開けた


直したのは、小さな習慣でした。


1週間のうち、曜日をずらして3日間、自分の作業を書き出すこと。書くのは、作業が切り替わった瞬間に1行だけ。時刻、作業名、所要の分数。「A社の提案書を修正」「新規候補の会社検索」「B社の決算短信を読む」。この粒度で、1日10分。3日合わせても、30分ほどでした。


夜にまとめて思い出して書くやり方は、すぐにやめました。記憶はすぐに薄れるので、昼に書く量は当てになりません。切り替わった瞬間に書く。これだけを守りました。完璧も狙いません。5分未満の細かい作業は「その他」に丸めました。3日分の数字は、1日だけ取ると、その日が商談だらけだったか事務だらけだったかで大きく歪みます。3日あれば、その歪みは平均されます。


3日目の金曜に、書き出した行を眺めて、はじめて自分の1週間の形を見ました。


手元の数字は、記憶と違った


数字が出ると、驚くことばかりでした。


朝いちばんの2時間が、リスト作りに消えていました。金曜の午後は、報告書の事務処理で埋まっていました。商談そのものより、その外側の、準備と後片付けの時間のほうがずっと長い。1本の商談の裏には、調査の30分、提案書の3時間、フォローの15分がついて回っていたのです。


20年間、私は「忙しい」を1つの言葉で言ってきました。忙しさの正体が、手元の数字に出たとき、その中身はもっと細かい作業の連なりでした。しかも、その連なりの中で、経験がほとんど効いていない作業があることも分かりました。検索して、読んで、整理して、書く。この繰り返しの作業は、20年やっても速くならない。2年目も10年目も、かかる時間はほぼ同じなのです。


ここまでやって、はじめてAIに渡すものが決まります。手元に並んだ行のうち、時間の大きいものから、渡すかどうかを悩めばいい。悩む順番まで、数字が教えてくれるのです。逆に言えば、この表がないまま「リスト収集をAIに任せよう」と決めても、それは感想で決めた任せ方でした。


任せる線


任せる線をまとめます。


表に書き出す仕事は、私です。作業が切り替わった瞬間に1行書くのは、私の手と目でしかできません。AIは、私が何をしていたかを知らないのだから、ここは代われません。


時間の合計と、順番の計算は、AIに渡しました。3日分の表を渡せば、大きい作業から順に並べ替えて、「この作業は週何時間です」と1行ずつ出してくれます。電卓を打つ手間より、ずっと速く正確でした。


そして、並んだ表を見て、何をAIに渡すかを決めるのは、私です。AIは「この作業は任せられそうです」と薦めてきますが、薦めを採るかどうかは、担当の名前が私である以上、私が決めます。順番の計算は機械に任せても、線を引く場所は、私の仕事のままです。


この表を書き始めてから、不思議なことに気づきました。渡す仕事を探すための表なのに、いちばん変わったのは、渡していない仕事のほうでした。商談の前後に慌てなくなった。手元に「いま何に時間を使っているか」の行があるので、週の見通しが立てやすくなったのです。箱を開けた人間は、箱の中身を忘れなくなります。


今週、ひとつだけ試すなら


道具は何も要りません。メモ帳か、スマートフォンのメモで構いません。


来週のうち3日、曜日をずらして、作業が切り替わった瞬間に1行書いてください。時刻、作業名、分数。1日10分で構いません。夜に思い出して書かないこと。この1点だけ守ってください。


3日分がそろったら、15分だけ使って、同じような作業の行を足してください。そして、いちばん時間の大きい作業を3つ、丸で囲む。この3つが、AIに渡すかどうかを悩む最初の候補です。表をAIに渡して「大きい順に並べて、合計時間を出して」と頼めば、並べ替えと計算は任せられます。どこから渡すかは、そのあとで決めればいい。


私は20年、自分の仕事を知っていると思っていました。知っていたのは、仕事の名前でした。中身は、3日30分の表が初めて見せてくれたのです。


書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(速水拓真)では、営業の仕事を4つの領域に分解し、何をどうAIへ渡すかを、貼って動く形でまとめています。渡す前に手元を確かめる30分は、その最初の一歩です。


それでは、また。


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