AIに任せて、最初に失敗した話
こんにちは。速水拓真です。
前回、「成功より先に失敗のほうが情報になるので、失敗から書いていく」と書きました。宣言どおり、最初の失敗から書きます。
AI導入支援を始めて3年ほど経った頃の話です。生成AIが営業の現場で使えるようになりかけた時期で、私は毎日、営業担当者の隣に座って「この仕事、AIに任せられないか」を確かめていました。
ある日、法人営業歴20年のAさんから、こう言われました。
「速水さん、次の商談の下調べ、AIにやらせてみませんか」
よろこんで引き受けました。相手は中堅の部品メーカー。AIに調査を頼むと、数分でメモが上がってきます。事業内容、決算の要点、採用の動き、いま困っていそうなこと。読み返すと、手がかりが全部そろっていました。私もAさんも、これは使える、と思いました。
メモには、こんな一文もありました。
「直近で新工場への投資を発表している」
Aさんは、商談の冒頭にこう切り出しました。
「新工場へのご投資、拝見しました」
相手の担当者は、一瞬、表情が止まりました。
「恐れ入りますが、新工場は同業の別会社さまで……。うちの場合は、2年前に既存工場の設備更新を発表しております」
営業をやったことがある人なら、この瞬間の空気は想像できると思います。準備をしてきたことを示すつもりの一文が、準備不足の証拠になる瞬間です。
Aさんがうまく間をつないで、商談自体は崩れませんでした。ただ、冒頭の10分で積むはずだった信頼は、マイナスから始まりました。その案件は、最終的に受注に至りませんでした。失注の原因がこの一件だと断定はできません。ただ、私の中では、この日が起点になっています。
なぜ間違えたのか
後で調べると、新工場の情報は、同業の別会社のプレスリリースのものでした。AIはそれを、Aさんの商談先の話として、きれいな文章のなかに混ぜていたのです。
AIは、聞かれたことには必ず答えようとします。営業で言えば、何でも知った風に返してくる後輩です。わからないとき、探すより先に、それらしい答えを作ってしまう。
悪いのはAIではありません。私の指示が悪かった。「この会社について調べて」と頼んだつもりでしたが、この指示でAIがするのは「この会社についてのそれらしい文章をまとめる」ことです。調べては、いなかった。
いちばん悪かったのは、出典を求めなかったことです。数字、固有名詞、時期。この3つは、元の情報にあたらないまま読むと、それらしい文章のなかに埋まったままになります。間違いは最初からありました。見えなかっただけです。
失敗を、設計に変えた
この日から、AIへの指示に3つの決まりを足しました。
出典を必ず添えさせる。 数字・固有名詞・時期は、元情報のありかが分からないまま書かせない
商談で口にする一文だけ、自分で裏を取る。全部は確認しない。全部確認していたら、3分では終わらない
「わからないときは、わからないと書け」と指示に書き込む
2つ目がいちばん大事です。AIの調査は、9割合っていて、1割が外れる。その1割を商談の冒頭で口にしたら、9割の正しさごと捨てることになる。だから、人前に出す文だけは、自分の目で確かめる。残りは、出典が付いていれば十分です。
この3つは、いまでは商談前に紙1枚の調査メモを3分で作る道具のなかに組み込んでいます。道具の半分は、この日の失敗でできています。指示文は、書籍のほうに全文を掲載しました。
次回は、この道具の中身——何を確認して、何を確認しないか、その線の引き方を書く予定です。
それでは、また。