速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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返信が来なかった4通を、開いている扉から入り直す話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、商談が終わった帰りの駅でメモを開く話を書きました。今日はその続きではなく、少し前に戻ります。商談の前に送ったメールの話です。


空欄の行を、いつも先送りしていた


アプローチを100社に送って、返信が来るのは7社ほど。そこから商談になって、受注に進むのが2件。これは私が長く営業をやってきた中で、何度も見てきた数字です。そして、残りの93社は宛先の一覧に、返信日の空欄を残したまま並んでいます。


私はこの空欄を、毎月のように見て見ぬふりをしてきました。「また来月、別の切り口で送ろう」と思いながら、結局は新しい100社を探しに行く。空欄の行は増える一方で、消えることはありません。同じ会社に、同じようなメールをもう一通送っても、返事が来ないのは分かっているからです。冷たい扉は、何度ノックしても冷たいままです。


20時間と2時間半、同じ結果


話を変えます。私の手元にある、二つの導線の数字を出します。


一つは、先ほどの冷たいアプローチです。100通送って返信7通、商談化2件。一通あたり12分かかるとして、100通で20時間の作業でした。


もう一つは、紹介です。お願いをしたのが10件で、承諾が6件、実際に紹介が成立したのが4件、そこから商談になったのが2件。依頼文を作るのに一通10〜15分なので、10件で2時間半です。


商談の件数は、同じ2件です。かかった時間は、20時間と2時間半。紹介の扉は、冷たい扉を叩き続けるより、8分の1の労力で同じ地点まで連れて行ってくれます。


理由は3つあります。


迷惑メールの振り分けを通らない。 紹介者の名前が件名に入ったメールは、機械に捨てられません。


開かれる。 「誰から来たか」が分かっているメールは、最初の3秒で切り捨てられません。


担保が効く。 自分が何者かという説明と、自社の品質の証明を、紹介者が肩代わりしてくれています。初回商談の前半が、まるごと不要になります。


それでも、なぜ頼めないのか


ここまで書けば、良いことしかありません。では、なぜ私は何年もこれをやらなかったのか。


営業部で「なぜ紹介を頼まないのか」と聞くと、答えはだいたい3つに集まります。


一つ目は、誰に頼めばいいのか整理できていない。二つ目は、誰を紹介してほしいのかを決めていない。「何かあれば」で終わってしまう。三つ目は、何と頼めばいいのか、文言がない。


どれも、勇気の問題ではありません。準備の問題です。そして準備は、私がこの note で書いてきた通り、AIに渡せる部分です。


頼む相手は、AIに点検させる


まず、過去3年分の取引先と商談先を一覧にします。会社名、担当者名、役職、契約や商談の内容、開始年月、直近のやり取り日、そして直近のやり取りのメモ。この7列で足ります。


その一覧を、そのままAIに渡して「紹介を頼んだときに動いてくれる可能性が高い順」に評価させます。


ここで大事なのは、評価の軸を「仲の良さ」にしないことです。見るのは4つ。継続してくれているか。成果が出た具体的なエピソードがあるか。直近3か月以内にやり取りがあるか。担当者が社内でどの位置にいるか。


特に2つ目を外せません。紹介とは、紹介元が自分の評判を担保する行為です。成果が出ていない顧客に紹介を頼むと、相手は「本当のことを言えない」立場に置かれます。断られるだけでなく、その関係そのものが気まずくなる。


これは、私が実際に一度やってしまった失敗です。当時、まだ付き合いの浅い会社に、勢いだけで紹介をお願いしました。数日後、返ってきたのは断りの言葉ではなく、「うちではまだ、そういう話ができる段階じゃないんです」という、気遣いのある一文でした。断られたことより、私が相手に気を遣わせてしまったことの方が、後から効きました。あの会社とは、それからしばらく、雑談のない付き合いになりました。


だから私は、AIへの指示文に「成果のエピソードを最重視する」と一文を入れています。都合の良い順番ではなく、無理のない順番で並べさせるためです。


お願いする言葉も、AIに整えさせる


相手が決まれば、次は文言です。「何かあれば」では動いてくれません。誰を、どんな会社を、なぜ紹介してほしいのかを、相手が読み飛ばさずに理解できる長さにする必要があります。


ここもAIに任せます。私は、自分が書いた3行のメモを渡して、依頼文に整えてもらっています。メモの中身は、紹介したい会社の名前と、なぜこの会社と合うと思ったのか、そして相手に負担をかけない範囲を一行で書いたものです。AIは、それを相手が読み飛ばさずに理解できる長さと順番に組み替えてくれます。


手を入れるのは、最後の一行だけです。「長くお付き合いいただいている御社だからこそ、お願いできればと思っています」。この一文だけは、自分の言葉で書きます。AIが書いた丁寧な文面より、自分の言葉の一行の方が、相手の記憶に残るからです。読み返すと、AIが整えた部分はどこも間違っていません。それでも、私が書いた一行だけが、少し不格好で、少し本音に見えます。紹介の依頼で必要なのは、その不格好さです。


紹介は、営業の仕事を人に渡すことではない


少し立ち止まって、この導線の意味を書いておきます。


紹介をお願いする行為は、営業の仕事を他人に押し付けることではありません。自分が積み上げてきた信頼を、次の誰かへ引き継ぐことです。だからこそ、頼む相手を選ぶことと、最後の一言だけは、機械に渡してはいけないのだと思います。


AIは、誰に頼めばいいかの候補を並べ、文言を整え、頼み忘れを防いでくれます。でも、その一通を送る瞬間の心臓の音は、代わりに鳴らしてはくれません。準備は機械に、お願いする一言は人間に。この note で書いてきた線引きは、紹介の場面でも同じ形で当てはまります。


AIは営業をなくしません。準備時間をなくします。


空欄の行が、明日の商談になる


一覧に戻ってください。返信日が空欄のままの行が、いくつか残っているはずです。そのうち何社かは、すでに成果を出してくれている顧客です。冷たい扉から入り直す必要はありません。開いている扉が、その一覧の中にすでにある。私はそれを、AIに並べ替えてもらうまで気づいていませんでした。


空欄の行を見るたびに、私は自分の失敗を数えているような気持ちになっていました。でも、あの空欄は、送った100通の記録です。100社に声をかけた事実は、消えません。返事が来なかっただけの会社と、まだ信頼が積もっていないだけの会社が、同じ列に並んでいた。並べ替えれば、後者は扉の内側にいる人だと分かります。私が長く勘違いしていたのは、そこでした。


今月、一件だけでも構いません。空欄の行を、紹介の行に変えてみてください。


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それでは、また。

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