商談が終わった10分で議事録とお礼メールを出す — 「明日まとめる」を「その日のうち」に変える15分
こんにちは。速水拓真です。
第1回では、営業の勤務時間の4割近くが準備業務に消えている数字を数えました。第2回では商談3分前に読める調査カード、第3回では提案書の初稿を20分で出す3層プロンプト、第4回では「今、困っている会社」を毎朝5分で拾う兆候検出を紹介してきました。
5回目は、第3回の次回予告で約束していた商談直後の道具です。商談が終わったその日のうちに、議事録とお礼メールを出すまでの15分を作ります。
議事録が溜まる理由 — 「商談のあとに、商談の2倍を書く」
商談のあとの作業を、工程ごとに数えてみます。
- 商談メモの清書: 30分
- 客先へ送る議事録の作成: 40分
- お礼メールの作成: 15分
- 自分用の宿題リストの整理: 15分
これを商談のたびにやるなら、1社との45分の商談のために、そのあとに100分の作業を払っている計算です。しかもこの100分は「急ぎ」ではないので、商談連続の週は溜まる一方。溜まった議事録が処理されるのは、次の商談で同じ会社と会う必要が生じたとき——つまり、書くタイミングが「思い出したとき」になるのです。
この構造の被害を、営業は2か所で受けます。
- 記憶の腐るスピード。商談が終わってから3日経つと、メモを読んでも当時の文脈が復元できません。「点検は月に1回」の「点検」が何の点検だったのか、自分でも分からなくなる
- 案件の止まり方。商談の中身は、議事録が客先に届いた瞬間に初めて「双方の合意」として動き始めます。議事録が「来週送ります」のままの案件は、中身が固まっていても外からは止まって見える
議事録を溜め込むのは、怠けだからではありません。清書と文面づくりという「制作」が、商談のあとのいちばん気力のない時間に来るからです。制作はAIに降ろす。この連載の原則を、商談後にも適用します。
前提となる考え方 — 入力は「商談中の生メモ」、出力は「9箱」
この道具の入力は、商談中に取った生のメモです。議事録を書くためのメモではなく、商談の最中に手元に走り書きしたものそのものを使います。
商談中に、次の5項目でメモを取っておいてください。
- 日時・参加者(肩書まで。「K部長」ではなく「K部長(製造部)」)
- 話したこと(思いついた順で構いません)
- 決まったこと
- 決まらなかったこと・持ち帰ったこと
- 約束(誰が・何を・いつまでに)
3〜5が空欄のまま終わっても問題ありません。空欄は「その項目を決めるために次回が要る」という意味なので、次回の議題の行としてそのまま使えます。
AIに渡すのはこのメモだけです。商談を録音して文字起こしした全記録を貼るやり方もありますが、私は勧めません。理由は2つあります。2,000字を超える入力は検算に時間がかかり、全体が手書きより遅くなる。そして雑談まで拾って、議事録が読みにくくなる。貼るのは300〜800字の生メモ。この範囲で、出力まで15分が成立します。
出力は、次の9箱です。
| # | 箱 | 誰が読むか | 中身 |
|---|---|---|---|
| 1 | 宛先・件名 | — | 議事録メールの宛先案と件名 |
| 2 | ご挨拶 | 客先 | 1〜2行。前回の話題があれば触れる |
| 3 | 確認したこと | 客先 | 商談で確認した事実。事実だけを並べる |
| 4 | 決定事項 | 客先 | 決まったこと。まだ決まらないものは書かない |
| 5 | 継続確認事項 | 客先 | 次回以降で決めること。次回の日程案を1行 |
| 6 | お礼メール | 客先 | 別送用の短い文面。件名つき |
| 7 | 宿題リスト | 自分 | 見積の数字は誰に確認、上司の承認はいつ——社内のやること |
| 8 | 次回の議題 | 自分 | 空欄だった項目から作る次回の議題 |
| 9 | 検算メモ | 自分 | 数字・日付・固有名詞の一覧。照合用 |
1〜6が客先に送る議事録メールに、7〜9が自分用の整理になります。1つのメモから2種類の成果物を1回で出すのが、この道具の設計です。
プロンプト本体
道具の核は、この指示文です。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでも動きます。触るのは(ここに貼る)の2か所だけです。
あなたは法人営業の議事録作成担当です。
商談メモから、以下の9箱を出力してください。
# 商談の基本情報
- 自社商材: (1文で)
- 商談の目的: (新規提案/更新/追加提案など1行で)
# 商談メモ
(商談中に取った生のメモをこのまま貼る。
# 出力の形
9箱をこの順で書く。各箱は指定の字数以内。
箱1【宛先・件名】宛先案2行、件名1行
箱2【ご挨拶】2行以内。前回の話題がメモにあれば触れる
箱3【確認したこと】箇条書き。メモに書かれた事実だけ
箱4【決定事項】箇条書き。決まったものだけ
箱5【継続確認事項】箇条書き+次回の日程案1行
箱6【お礼メール】件名1行+本文120字以内
箱7【宿題リスト】宿題/相手/期日/やること の4列
箱8【次回の議題】メモの空欄から3つまで
箱9【検算メモ】メモ中の数字・日付・固有名詞をすべて抜き出す
# 絶対ルール
1. メモに書かれていない事実・効果・挨拶は一切書き加えない
2. 箱3と箱4は、メモの言葉をそのまま使う。言い換えない
3. 期日の書かれていない宿題は「要調整」と記入する
4. 「貴社の〜」のような自明な言い回しは箱2と箱6だけに限る
5. 全体の分量は、箱7〜9を除き600字以内
商談が終わってから、商談メモを開いて貼り、送信。2〜3分で9箱が出ます。
出力サンプル
手元のダミー案件で回した見本です(社名・数字は架空のものです)。
箱3【確認したこと】
・棚卸業務は3名で年2回、各2日かけて実施
・点検記録は現在紙で管理し、月末に集計
・次回決裁は10月の経営会議を想定
箱5【継続確認事項】
・点検記録の電子化範囲(全拠点or主要拠点)
・次回日程案: 10/2(月)14:00〜15:00 を候補に調整します
箱7【宿題リスト】
更新見積の作成/営業担当=自分/10月上旬
点検記録の現行運用ヒアリング結果を資料に反映/先方の実施/来週
箱9【検算メモ】
数字: 3名、年2回、各2日、10月、14:00〜15:00
固有名詞: 経営会議、棚卸、点検記録
検算 — 5分の照合で信用を守る
議事録は、事実の確認書面です。AIが書いた議事録には、2種類の間違いが混ざります。
1つ目は事実の追加です。AIは文脈から「効率が向上する」のような効果を補ってきます。「メモに書かれていない事実・効果は一切書き加えない」(絶対ルール1)は、この防止です。
2つ目は言葉の言い換えです。メモの「各2日かけて」を「煩雑な作業」と書き換えると、事実が解釈に変わります。箱3・箱4でメモの言葉をそのまま使わせる(絶対ルール2)のは、この防止です。商談の中身を決めるのは先方の言葉であって、AIの言葉ではないからです。
照合は1分で終わります。箱9の検算メモの数字・日付・固有名詞を、元のメモと突き合わせるだけ。数字が1つでも違ったら、その箱だけ直して送ります。この15分は、議事録の「品質」を上げる時間ではなく、「誇張のないこと」を保証する時間です。
所要時間の正体 — 15分の内訳
毎回正直に書きます。
- 商談メモの貼付と送信: 1分
- AIの9箱生成待ち: 2〜3分
- 箱9で照合し、必要な箱だけ修正: 3分
- 議事録メールへの転記と送信: 4〜5分
- お礼メール(箱6)の送信: 2分
- 商談後の合計: 15分前後。1社あたり
この15分をその日のうちに払うことで、100分の清書・作成が消えるわけではありません。正確には、「清書する30分と議事録を書く40分」が「照合する3分と転記する5分」に変わり、残りはお礼メールと宿題整理に回る。人間がやる部分が「書く」から「確認する」に変わる、というのが正確です。
そして、効果は時間だけではありません。議事録が商談当日に届く商談は少数なので、「この営業は動く」という印象の差にもなります。認識の食い違いがあっても、訂正メール1通で済む段階で見つかる。この15分は、防衛の時間でもあります。
次回
第3回で約束していた「フォローの途切れを仕組みで潰す設計」は、この連載と同じ内容をブログ「営業をAIに任せる実践ノート」の「フォローアップ — 「続かない」を仕組みで潰す」として本日公開しました。案件カードに「先方が言った『次』の一言」を書く型と、週1回の仕分けプロンプトがそちらに載っています。
次回は、商談の前夜にAIと予行演習をする道具を書きます。想定質問と回答の自動生成です。議事録(箱7の宿題)が回り始めたら、次に弱くなるのは商談の中身そのものだからです。
書籍では、この議事録作成を含む商談の全工程を72本の道具で通しで解説しています。商談後の15分に、この道具と前後の工程を組み合わせる設計まで含まれています。
商談をAIに鍛えさせろ — 事前準備から断られフォローまで、商談の全工程をAIで強くする(Amazon)(Kindle・読み放題対象)
書籍の詳細と読者特典はこちらのサイトにまとめています。この連載の一部は、ブログ「営業をAIに任せる実践ノート」でも公開しています。
それでは、また。