速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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空のリストに、50社の最初の一行を書く話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、自分の仕事の中身を3日かけて開けた話でした。手元の数字が出て、AIに渡す候補が決まる。その流れの先に、今週はもっと始まりの話があります。リストが、まっさらの状態の話です。


20年やってきた私でも、転勤のたびにリストは空になりました。新しい担当区域の名簿は手渡されても、その会社を「どの順番で会うか」だけは、誰も書いてくれない。1社目は自分で選るものです。その選び方を、20年かけて1行に落としていたので、今回はその話をします。


「次の50社」は、手帳の余白に生まれていた


昔の私の1週間は、こう回っていました。手持ちの顧客を上から順に回して、金曜の夕方に5社消化して、土曜に手帳を開いて「次の50社」を見つけ始める。日曜の夜には50行の下書きができて、月曜の朝から順番に電話をかける。


この回り方を20年繰り返して、ある月曜の朝、手を止めました。書けた50行を上から読んで、ふと思うのです。「この順番は、どこから来たのか」。思い返すと、見つけた順でした。業界紙で名前を見た会社が上に、直前に聞いた話が中に、昔の名刺の残りが下に。50行の並びは、時系列であって、優先順ではありませんでした。


気づいたときには、月曜の8時50分。最初の1社に電話をかける6分前でした。そこで私は、その50行をそのまま回すことにしました。選び直す時間がなかったからです。あれは選び直しができなかった1週間で、上から10社かけてアポがゼロ。15社目でようやく1件。10年前の自分がやれば半日で出せた成果を、私は1週間かけたのです。書けた行を、見つけた順番で使ってしまった。50社の選び方を語るとき、私はまずこの失敗から始めます。


1社目は、正解を決める作業ではない


次の週の土曜、同じ作業をやり直しました。今度は、書けた50行をそのままにして、いちばん上に来る会社を決めるだけの時間を取ったのです。


取った方法は、単純でした。表の上を指でなぞりながら、各行の隣に3つの質問を短く書き込む。「この会社は、いま動いているか」「私の商材が届く規模か」「会っても邪魔にならない理由があるか」。書き込めた行の横に印を付けて、印の多い順に並べ替える。30分の作業でした。


ここで大事なのは、1社目を「正解」として選ぼうとしないことです。50社のうち、本当に正解は1社か2社。それを1社目で当てようとすると、選ぶ作業はいつまでも終わらない。20年目の私は1社目に完璧を求めて、週末の時間を全部溶かすやり方をしていました。完璧な1社目とは、迷いのない1社目のことではなく、根拠を口に出せる1社目のことです。「求人が数か月続いているから」「設備投資の発表があったから」。この1文が言えれば、正解かどうかは関係ありません。外れても、根拠が残る。根拠が残る選び方は、次の週に直せるのです。


もう1つ、その30分で変わったことがあります。選ぶ基準を口に出すと、基準そのものが育つのです。月曜の朝に「いま動いているか」で外した会社が、次の週に動いていたら。それなら「動く前に拾う」を基準に足す。選び方は、回すたびに太くなる表でした。1枚目の表に完璧を求めるから、誰もリストの最初の一行を書けないのだと思います。


AIに渡したのは、並べ替えの30分


この選び方、実はAIに任せる部分が半分あります。


3つの質問の判断は、渡しません。「この会社はいま動いているか」は、私の商材と持ち場の事情に接した判断で、営業それぞれの頭にしかありません。渡すのは、その前後の作業です。


手元に候補の行があるなら、AIはそれを何通りにも並べ替えられます。「業種の近い順」「規模の帯の順」「最近動いている順」。50社の並べ替えが30分の作業ではなく、10秒の作業になる。私がそのあとやるのは、並び替わった表の上を指でなぞって、各行に根拠を書き込むことだけです。


ここから先は、勘の話です。20年目の私は、リストの上をなぞると「この会社は違うな」と感じる瞬間があります。かつての私はこの瞬間を、単なる気まぐれだと思っていました。あとで受注した行を振り返ると、外した行には「断られた翌年に他社と契約した跡」とか「支店が閉鎖した跡」みたいな、何が起きていたか分かる話が残っている。勘の背後には、いつも事実が隠れていました。それを言葉に変えれば、基準は増えていく。


書籍でも書いた話ですが、勘は捨てる必要がありません。翻訳して渡せばいいのです。AIは並べ替えが上手い。選ぶ判断は、根拠のある形で私が持ち続ける。この分担で、リストの最初の一行は1社目の重みが消えたぶんだけ、書きやすくなりました。


最初の50社には、50の理由が要る


ここまで書いて、最後にもう1つだけ。リストの最初の50社には、50の「理由」を書くことだけは守っています。


理由というのは、「なぜこの会社がこの表にいるのか」という1行です。求人が何か月続いているのか。設備投資の発表はいつだったのか。紹介の入口はどの顧客か。1行でいいので、各社に1つ。これは20年前の私が守らなかったことで、当時は「会社名が並んでいればリストだ」と思っていました。実際には、理由のない会社名は、1か月後に他の誰かのものになります。自分の商材との接点も、会った理由も書かれていない行は、他社の行と同じ重さで並ぶ。書いた本人だけが、重みを覚えているのです。


理由のない行は、削除する勇気も要ります。理由を1か月説明できない行は、消して新しい行を足す。リストとは、書き足す場所ではなく、理由が通る場所です。


任せる線


まとめます。


収集と並べ替えはAI。根拠を書くのは私。外す判断も私。基準の言葉も私です。AIは名簿を作れるが、名簿に重みを持たせるのは営業の仕事です。最初の50社も、同じです。100社から始めても良いですが、50社は、理由を書ける限界の数字です。


今週、ひとつだけ試すなら


手持ちの表を開いて、上から10社に「なぜこの会社がいるのか」の理由を足してください。書けた行だけを使います。書けない行は、来週の発掘に回す、という札まで付けて構いません。


私の1社目は、いつも根拠のある最初の一行から始まります。完璧な1社目は、20年探してまだ見つかっていません。書いてその週に会える1社目なら、毎週見つかります。


書籍『見込み客をAIに探させろ — 空リストに悩む営業のための、顧客発掘の完全自動化』(速水拓真)では、最初の1社に根拠を与える調査の仕組みから、リストの並べ替えまで、貼って動く形でまとめています。


それでは、また。


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