速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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2週間使い切るまで、誰にも渡さないと決めた話

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こんにちは。速水拓真です。


前回は、商談のあとに送る提案書を、決める人の読む向きの順に並べ直す話を書きました。今日は読む人の側から離れて、仕組みを配る側に立つ話です。AIの道具を人に広げるとき、最初に何をするかの話。入りは、15年前の秋のある木曜の午後の会議室からにします。


説明会の翌日、3行目で止まった人


15年前の私の部署では、新しく作った物の広め方を、説明会一発で決めていました。私は企画した側で、手順の紙と、朝の動き方をまとめて配りました。説明会で紙の中身を読み上げ、質問の欄を一巡して、「では、明日からよろしくお願いします」で閉じた木曜の午後です。


いちばん早く広げた物ほど、速く止まったことを、あのときの私は知りませんでした。


説明会の翌日の朝、隣の席に座った人が、机の前で手を止めていました。紙の3行目でつまずいて、それから10分ほど手元をいじって、「やっぱり自分には無理みたいです」の一言で閉じました。紙の3行目は、書いた私の側では何の引っかかりもなかった場所でした。想像していない場所で止まって、想像より速く閉じたのです。


これが当時の私の広め方の全部です。企画した本人が、使う側の席に一度も座らないまま、物を配っていました。


合否は、最初の10分で決まる


あとから並べ直すと、使う側の判決は、10日間の試用より先に来ていました。最初の10分で引っかかるか、引っかからないか。そこで決まった答え「自分には無理」は、そのあと何日続けても覆りません。


紙を書くとき、3行目が読める前提で4行目を書いています。3行目で止まる人のことを想像した紙は、書こうと思ったこともない。想像できない場所の世話は、起きてから考えることになり、起きたときには、もう使ってもらう言い訳が残っていません。


その原因が、使っていない本人が配ることの方にあるとは、当時の私は気づいていませんでした。道具が悪かった、説明が足りなかった、人選が悪かった。並べられた答えの中に、配る側の使い込みは一つも入っていなかったのです。


自分に渡した2週間


1年前にこの仕事に機械を入れたとき、順番を逆にしました。機械は、誰かの分を作る前に、まず私の分として2週間だけ使い切る。その2週間の1週目は、直しません。


朝から晩まで機械に書いてもらう中で、引っかかった場所を、1行ずつ書き留めるだけです。工程ごとに、リスト更新・アポメール・提案書・朝の選別。直したくなる瞬間が1日に何度も来ますが、そこを我慢して1行に留めます。


我慢する理由は2つ。直す前と直した後が1週の中に入り混ざると、かかった時間の記録がつながらなくなること。もう1つは、1日に3箇所直すと、どの直しが効いたのか分からなくなること。効いていない直しが混ざったまま2週間を終えると、渡す側に届くのは「直したつもり」の形です。


1週でたまった行は、15行でした。毎日を1人で回して、1日に1〜3行。長文禁止の1行です。書き留める分量がこの程度だから、記録自体が3日で途切れません。


2週目は、出た行の多い順の1つだけ


2週目の初めに、並べ替えは機械へ渡しました。1週目の行を、工程名の同じ行ごとに数えさせて、多い順に並べてもらう。私が見るのは順位だけです。


直す箇所は、1日1つに限りました。15行を一気に直そうとした日が一度だけあり、どの直しにも時間を割けず、全部が中途半端な形で閉じた。翌朝から1日1つに戻しました。直した翌日は、その工程をもう一度だけ通します。直す前と直した後の1組が取れるまでは、次に進まない。


直し方は3つだけです。指示に1行足す。長い指示を削る。順番を入れ替える。それ以外はやりません。新しい機能を足す直しは、2週間で一度もしていません。


基準はただ一つ、これは選択肢を増やす直しか、減らす直しか。件名の候補を3案から5案に増やす直しは、ほとんどの場合、逆に悪くなります。選択肢が増えるほど朝の判断は重くなり、判断の重い形は3週目で使われなくなる。逆に、迷いを消しただけの形ほど、朝の1行目までの時間が短くなりました。私の記録では、1週目と2週目の終わりで8分の差が出ました。機能は何も増えていません。迷いの数だけが減っています。日々の出力の数をどう拾うかの話は、別の回に任せます。今日の行は、使う側の指の引っかかりだけです。


昨日、後輩から「渡していいですか」が来た


話を昨日に戻します。私がこの仕事に機械を入れたのは約1年前ですが、後輩に毎朝6時のリスト探しを渡したのは、ちょうど2週間前の火曜でした。その2週間は、昨日の夕方でぴったり埋まりました。


同じ夕方、後輩が聞いてきました。


「2週間、使いきりました。そろそろ、ほかの人にも渡していいですか」


まず答えではなく、行を見せる方をお願いしました。使い始めてから昨日までの引っかかりを、1行ずつ書き残した欄を出して。ほかの人に渡すのは、その行を先に渡したあとでいい、と。


渡す側の2週間に必要なのは、説明会で使うような立派な話ではありません。「ここで私も詰まりました。この直しで消えました」という、引っかかりと直しの1組1組です。上手にできた話よりも、引っかかりを見せるほうが、そのまま先に信じてもらえます。2週間使い切った人の行の一覧は、15年前の紙の3行目を、使う側が止まる前に全部埋めて置いた形そのものです。不在に備えて残しておく文の話は、連載の途中に書きました。今日の行はその前の話で、まだ渡っていない機械を、渡す側の指で使い切る2週間の記録です。


渡したあと、直すのは一人だけ


渡す段取りには、もうひとつ15年前に学んだことが残っています。渡したあとの直しは、一人に集めること。


後輩がほかの人に渡したあと、「この指示、こう直せませんか」が挨拶のように毎回出るのは最悪です。確認を待つ間に、使う側の調子は冷める。逆に使う側が好きに直し始めると、1週間後に同じ名前の指示文が2つ並びます。


だから今の約束はこうです。渡されたあとの直しは後輩が全部引き受ける。使う側は、直したい箇所を1行で書いて後輩に寄せる。後輩は一日一つずつ直して、直した翌朝はその工程をもう一度通す。そして直しの途中の形は見せない。中途半端な形で見せると、使う側は直る前の形のよさを覚えてしまい、直し自体が続かなくなるからです。


任せる線


引っかかりを1行ずつ書き留めるのは人間です。溜まった行を工程ごとに数えて多い順に並べ替えるのは機械。直す箇所を一日一つに限り、直した翌日にその工程をもう一度通す判断は、人間のままで動かしていません。機械に任せてよいのは、数え上げと並べ替えと、直しの文面の下書きまで。渡したあとの直しの権限を誰が持つかを決めるのは、2週間の最後を迎える人間です。この線は、15年前の木曜の午後に、一度も座っていなかった使う側の席から教わりました。


今週、ひとつだけ試すなら


使っている仕組みが一つあるなら、引っかかった箇所を、今日からただ1行ずつ書き留めてください。まだ直しません。直そうとした瞬間に、1行だけ書く作業が3日で途切れます。1週続けて書き留めたら、次の週の初めに機械へ並べ替えさせます。多い順に、一日一つ。15年前の私は、説明会の翌朝に3行目で止まった隣の席の人に、渡せるものが何一つありませんでした。書き留めた1行の1行1行が、今度は誰かの最初の10分を、そのまま静かに通す形を用意してくれます。


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