企業調査メモをAIに作らせる — 商談3分前に読める「1枚」の作り方
こんにちは。速水拓真です。
前回の記事では、営業の勤務時間のうち顧客と対話している時間が8%しかない、という数字の話を書きました(連載第1回)。この連載では、その「対話しない時間」をAIに任せる具体的なやり方を、営業の言葉で書いていきます。
今回は最初の実践編として、商談前の企業調査を取り上げます。1社20〜30分かかるこの作業を、3分に圧縮する道具です。
従来の企業調査が遅い理由
商談の前に企業調査をする場面を思い浮かべてください。検索エンジンで会社名を調べ、公式サイトの事業内容を読み、ニュースを開いて決算や新規事業の動きを確認し、採用ページまで見に行く。こうして集めた情報を、自分の商談の文脈に当てはめて整理する。
この作業が20〜30分かかるのは、情報の収集と、商談での使いどころの判断が混ざっているからです。調べる人間は、収集しながら「これは商談で使えるかな」「これは違うな」と同時に考えています。同時並行は、どんなに慣れても速くはなりません。
AIに任せるなら、この2つを分けます。収集と要約はAIに。商談で使うかどうかの判断だけを人間がやる。これが3分になる仕組みです。
前提となる考え方 — 「全部覚えるメモ」は作らない
AIに「この会社について調べて」と頼むと、事業内容、沿革、決算、採用、プレスリリースが網羅された長いメモが返ってきます。これは間違いではありませんが、商談で使えません。商談の冒頭10分で読める情報量には限りがあります。
だから、作るのは商談前に読める1枚です。私の道具では、次の5つの箱で構成しています。
- 箱1: 会社の一番の変化 — 直近の決算、新事業、組織変更のうち、商談で触れる価値が最も高い1つ
- 箱2: うちの商材との接点 — 相手の変化のうち、自社の解決策が刺さりそうな箇所を1つに絞る
- 箱3: 商談で口にする一文 — 調査で得た事実のうち、冒頭で引きに出す1文(下書きAI→人が確認)
- 箱4: 聞くべき質問2つ — 調査で分からなかったことを、相手に直接聞く形に変えたもの
- 箱5: 使ってはいけない話 — この会社で触れるとまずい話題(競合の話、悪い評判、古い情報など)
最後の5箱目が重要です。AIが出力する情報には古いものや、別会社のものが混ざることがあります。前回の記事で書いた「失敗の話」の教訓をここに組み込んでいて、商談で口にする前には必ず元情報を確認する運用にしています。
実際のプロンプト
道具の核は、このプロンプトです。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでも動きます。
あなたは営業担当者の商談準備アシスタントです。
以下の情報を入力として、商談直前に読める「調査カード」を1枚作成してください。
【入力】
- 対象企業: (会社名)
- 自社商材: (1文で)
- 商談の目的: (新規導入の提案/更新/追加提案など)
- 参照情報: (会社の公式サイトURL、ニュース記事、決算短信などのテキストを貼る)
【出力形式】
1. 会社の一番の変化(直近の決算・事業・組織のうち1つ、出典を添える)
2. うちの商材との接点(相手の変化と自社商材が交わる箇所を1つ)
3. 商談冒頭で口にする一文(30文字以内で下書き)
4. 相手に直接聞くべき質問2つ
5. 触れてはいけない話(参照情報から判断できる範囲で)
制約:
- 出典のない事実は書かない
- 「わからない」と書くことを厭わない
- 出力は全体で600字以内
ポイントは2つあります。1つは「出典のない事実は書かない」という制約。もう1つは「わからないときは、わからないと書け」という指示です。この2つがないと、AIはそれらしい文章を作ってしまうので、商談の冒頭でその1文を使った瞬間に信頼を失うことになります。
運用の実際
私はこのカードを、商談の3分前に印刷したものを手に会議室に入ります。読むのは1分。残りの2分で箱3の一文を確認し、自分の言葉に直します。
AIへの入力に必要なのは、対象企業の情報を貼り付けることだけです。自分で検索して読む時間がなくなったわけではありません。読む前に、どこを読めばいいかが決まっている状態になります。参照情報の質がカードの質を決めるので、私は今でも商談前には必ず元情報を開きます。
調査時間は、1社20〜30分から3分になりました。正確には、20〜30分の調査を「カードの入力に必要な情報を集める10分」に圧縮し、残りの判断を3分にした、というのが正確です。丸ごと消えたわけではなく、人間がやる部分が「収集」から「判断」に変わった、ということです。
次回
次回は、このカードの情報を提案書に繋げる話を書きます。商談メモから提案書の初稿を20分で作る、という道具です。
書籍では、この調査カードを含む72本の道具を通しで紹介しています。商談の全工程をAIで強くする、というテーマで書いた完結作です。
商談をAIに鍛えさせろ — 事前準備から断られフォローまで、商談の全工程をAIで強くする(Amazon)(Kindle・読み放題対象)
書籍の詳細と読者特典(プロンプト3点セット)はこちらのサイトにまとめています。
それでは、また。