速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
Zenn

提案書の初稿をAIに書かせる — 「ゼロから書く」を「直す」に変える20分

初出: Zenn

こんにちは。速水拓真です。

第1回では、営業の勤務時間のうち顧客と対話している時間は8%しかない、という数字の話を書きました。第2回では、商談前の企業調査を3分に圧縮する「調査カード」の作り方を紹介しました。この連載は、その「対話しない時間」をAIに任せる具体的な道具を、営業の言葉で渡していく回です。

3回目は、準備業務の中でいちばん時間を食う提案書を扱います。1本あたり3〜5時間。修正依頼が来ればさらに2時間。週に2〜3本出すとなれば、これだけで月20時間を超えます。第1回で数えた「週15〜20時間の準備業務」の、中心にある作業です。

今回は、この3〜5時間を初稿20分・完成まで40分に縮める道具を書きます。コピーしてそのまま使えるプロンプト付きです。

提案書が遅い理由 — 7割を毎回書き直している

提案書をゼロから書くのが遅いのは、タイピングが遅いからではありません。案件が変わっても書き換わらない部分が7割あるのに、それを毎回頭から書き直しているからです。

自社紹介、実績の数字、価格表、強みの説明。これらは案件が変わってもほぼ変わりません。一方、案件ごとに本当に変わるのは「相手の課題」「提案の中身」「効果の数字」の3割だけです。この3割のために7割を含めた全工程を毎回起動しているのが、3時間かかる提案書の正体です。

もう一つ、見落とされがちな無駄が「構成を決める時間」です。毎回、どの順で何を書くかをゼロから考える。しかも営業は「自社紹介、商品説明、そして価格」と、自分が話したい順序で書きたがります。ところが決裁者の読み方は正反対です。

決裁者は、渡された提案書をこう読みます。

  1. 1枚目の結論(30秒)— 金額、開始時期、決めること
  2. 最終枚の条件(30秒)— 外れた場合の話があるかを、後ろから探す
  3. 費用の内訳と回収(30秒)
  4. 自社の記述(30秒)— 自分の会社の数字が正しいか
  5. 時期と作業量(30秒)— うちの誰がどれだけ動かされるか
  6. 手法の詳細 — 時間が余って初めて読まれる

合計2分30秒。読了に3分を超える提案書は、その場で決まらず「持ち帰って検討します」となります。そして検討に持ち込まれた書類は、たいてい戻ってきません。

だから、まず構造を6枚の箱に固定します。

中身
1 【結論】 決めること・金額・時期を3行
2 【事実】 相手の現状、出所つき
3 【全体像】 導入前と導入後の対比
4 【計画】 週ごとの工程。相手側の作業も入れる
5 【費用】 内訳と回収期間の割り算
6 【条件】 外れた場合の扱いと代替案

一度決めたこの箱の名前と順序は、すべての案件で使い回します。構成を考える時間が、ここでゼロになります。

入力を3層に分ける

構造が決まったら、AIに渡す材料を3層に分けます。失敗するプロンプトのほとんどは、この層分けをせずに全部を1枚に書いて投げていることが原因です。

「提案書を書いてください」としか渡さないと、AIは形の整った提案書を出します。しかし読むと、顧客の課題はAIの想像で、効果の数字はAIの発明です。「生産性が30%向上します」が当然のように並び、30%の根拠はどこにもありません。AIが数字を作るのは性格の問題ではなく構造の問題で、材料が渡されていない穴を、AIが「見た目の妥当な材料」で埋めるからです。直すべきは言葉づかいではなく、入力の設計です。

3層は次のとおりです。

  • 層1 自社情報 — 事業、実績、標準価格、強み。半年〜1年は変わらない。1回書いて保存し、全案件で使い回す
  • 層2 顧客情報 — 相手の規模、重点施策、現場の原話、決裁の道のり。案件ごとに埋める
  • 層3 提案内容 — 何を、いくらで、いつから。人間が決める4行

層2の要は原話主義です。ヒアリングや商談で聞いた言葉を、要約せずそのまま入れます。

  • 要約:「コスト意識が高い」
  • 原話:「点検記録を紙で書いて、月末に3人が2日かけて集計している」

この2つで、3枚目以降の出来が変わります。要約からは、どの会社にも当てはまる一般論しか出ません。原話からは、人数・日数・行為のそろった課題が出ます。前回の記事で作った調査カードの箱3・箱4と、商談中にスマホのメモに打った相手の言葉が、そのまま層2の材料になります。言い換えない、まとめない。この2点だけ守ります。

層3の4行目「効果の元数字」が、この道具の心臓部です。①削減・短縮前の数字②導入後の見込みと根拠1行③換算の単価、の3つを並べます。この行を空欄にすると、AIは「30%の効率向上」を作ります。数字は1回考えて人間が置く。割り算はAIに見せる。この分業です。

プロンプト本体

道具の核になる指示文です。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでも動きます。触るのは(ここに貼る)の3か所だけです。

あなたはBtoB法人営業の提案書ライターです。
下の3つの層に入力された情報だけを使い、6枚の提案書を書いてください。

# 層1 自社情報
(保存した自社情報をここに貼る。事業内容1行、提供物3行、
出所つきの実績数字、品目単位の価格表、強み3つ)

# 層2 顧客情報
(案件ごとの情報をここに貼る。正式名称と規模、今期の重点施策、
現場の原話、競合・代替の状況、決裁の道のり。
1項目に1個、(出所: )を付ける)

# 層3 提案内容
- 何を: (商材と規模)
- いくらで: (初期費用と月額)
- いつから: (開始時期と契約期間)
- 効果の元数字: (削減前の数字/導入後の見込みと根拠1行/換算の単価)

# 出力の形
6枚を次の順で書く。各枚は250字以内。順番は変えない。
1枚目【結論】3行。何を・いつから・総額・効果1文。金額はここだけ
2枚目【事実】出所つきの事実のみ。3つの層に出所がない事実は書かない
3枚目【全体像】導入前と導入後を2段で対比。矢印は1本
4枚目【計画】週単位の工程8行まで。相手側の作業も行に入れる
5枚目【費用】明細を並べ、効果の元数字だけを使って割り算を1つ以上。
使った数字と計算式をそのまま文字で書く
6枚目【条件】外れた場合の扱いと、代替案2つ。
金額は層1の価格表の範囲で組み立てる

# 絶対ルール
1. 3つの層に書かれていない数字は、効果の試算も含めて一切書かない
2. (出所: )を付けられない事実は書かない
3. 層2の原話は言い換えず、「 」のまま使う
4. 「革新的」「最適」「劇的」といった形容詞は使わない

案件を変えるたびに、新しいチャットを開いて層1から貼り直すのが作法です。同じチャットで案件を続けると、前の顧客名が混ざる事故が起きます。

貼って送信すると、2〜3分で6枚が出ます。5枚目はこう出ます(手元のダミー案件の見本です)。

5枚目【費用】
初期費用 60万円(設定・データ移行・研修込み)
月額 5,000円 × 30ID = 15万円
初年度総額 60万円 + 15万円 × 12か月 = 240万円
効果 棚卸削減 (24時間 − 4時間) × 3,000円 = 月6万円
効果 欠品時の外注費 月8万円が消える → 合計 月14万円
回収期間 240万円 ÷ 14万円 = 約17か月

検算 — AIは文章が上手くて、計算が下手

ここからが、この道具の本題です。結論から言うと、AIは文章が上手くて、計算が下手です。しかも間違い方が質が悪い。「×12」が「×120」になる。総額の桁を1つ落とす。「17.1か月」を「約2年」と勝手に言い換える。それでいて文章は滑らかです。滑らかな文章に乗った間違った数字ほど、読み手の信用を落とすものはありません。

だから5枚目の数字は、全部自分の電卓で打ち直します。月額、初年度総額、月次効果、回収期間の4回。1分で終わります。「式を本文に残す」を指示してあるので、ズレたときにどの式のどこが崩れたかが一目で分かります。式を残していないと、結果の数字だけが残り、間違い探しに何十分もかかります。

ズレたとき、原因は3択です。指示文本体はいじりません。

  • 層1(自社情報) — 6枚目の代替案に必要な部品が価格表にない、値上げ前の古い単価が残っている → 層1を直す
  • 層2(顧客情報) — 年間効果が桁違いに出た → 「月14万円(年168万円)」と月次と年次を並記すると起きなくなる
  • 層3(指示) — 回収期間を言い換えてきた → 「○か月の形で書く」を1行足す

直したら新しいチャットで貼り直して、もう1回通します。やり直しは1回まで。それでも合わない行は、AIの数字を消して自分の電卓の数字に置き換えます。提案書で一番まずいのは、誰も計算根拠を説明できない数字です。電卓で打った数字なら、商談で突っ込まれた瞬間にその場で説明できます。

ついでに2点だけ見ます。1枚目の金額と5枚目の総額が一致しているか。2枚目の実績に(出所: )が付いていて、その名前が層1に実在するか。これで照合は終わりです。

所要時間の正体 — 20分と40分、どちらも本当

前回と同じく、正直に数字を書きます。

  • 層2への記入・層3の4行:15〜18分
  • 貼ってから6枚の生成まで:2〜3分
  • 初稿までの合計:約20分
  • 検算(電卓4回と読み直し):10分
  • 仕上げ(宛名の復元、自社テンプレへの貼り替え、書かないことを決める):12分
  • 完成までの合計:約40分

「20分で全部終わる」ではありません。3〜5時間かけていた「ゼロから書く」が、初稿20分+直す20分の「直す」に変わった、というのが正確なところです。2件目以降は層2の記入が8分ほどに縮み、合計30分強。手で半日かけていた頃と比べれば、週2〜3本という提案書のペースが作れます。

層1の作成には初回だけ45分ほどかかります。これは費用ではなく投資です。書いて保存した層1は、この先すべての案件で使い回される資産になります。載せていい数字は「社内で出所を説明できるもの」に限ります。パンフレットのキャッチコピーを層1に入れると、AIはそれを事実として2枚目に並べます。AIにとって層1は自社のファクトブックで、載せたものだけが事実になるからです。

残る3つは人間の仕事です。社名をA社・S様から正式名称に戻す(登記上の社名と役職を名刺と突き合わせる)、テンプレートへの貼り替え、そして「書かないこと」を決める——値引きの話を先に出すか、競合の見積もりに触れるか。これは層2に書いていない以上、AIには判断できません。

文章はAI、計算は電卓、ハンコは自分。 数字の責任は、提出した営業本人に帰属します。AIは責任を取りません。だから検算は、署名の前にやります。

次回

次回は、商談が終わった直後の話です。議事録とお礼メールを15分で出す道具と、フォローの途切れを仕組みで潰す設計を書きます。失注のかなりの割合が、この途切れで発生しています。

書籍では、今回の6枚の構造と3層プロンプトを、記入例・失敗パターン4つ・検算の手順まで含めて詳しく紹介しています。リスト収集から提案書まで、営業の準備業務全工程の自動化を1冊にまとめたものです。

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書籍の詳細と読者特典はこちらのサイトにまとめています。この連載の一部は、ブログ「営業をAIに任せる実践ノート」でも公開しています。

それでは、また。

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